お兄ちゃんは大丈夫だよ。

『七瀬は椛を連れて逃げなさい!!!!』

『急げ!ここから出ろ!!』

「おい椛!行くぞ!!」

『いやだっ!!お母さん!!!』

祈りを捧げる地で起きた出来事

泣きわめく妹の腕を無理に引っぱる。

『お兄ちゃんはいらないの…?』

「お兄ちゃんは戻る途中食べたから大丈夫。2人で食べな。」

こんな嘘をついた自分、そしてそれを信じた妹

『やだッ!! 離して!!』

「やめろッ、刺すぞッ…!!」

『あぁ?ガキのくせ舐めた口聞いてんじゃねぇぞ?』

離れ離れになった

『今日からここが君の居場所だ』

「カジノ…?」

安く買い取られた先でオレは大きく変わった
…………………………………

俺は、警察官で魔術師の母親と、科学者で黒兎の父親の間に生まれた。
妹も2人。5つ下の妹と、6つ下の妹。
いつも母親は仕事で帰りが遅くて、父親は何かの実験の研究で
両親共に家にいることが少なかった。
だから俺がほとんど家事をやっていた。
たまに、親が休みの日は出掛けたり、遊んだり。
教会で祈りを捧げたり。
学校のテストで悪い点数とって怒られたり、
習字で賞をって褒められたり、
あまり家族一緒にいることは多くなかった。
それでも、俺にとってそれが幸せだった。
ずっと続いて欲しかった。

ある日の休み。
俺達は久しぶりに教会に来ていた。
美しいステンドグラスに少し変な雰囲気の祭壇。
そこにいる"神"に向かって祈りを捧げる。
お母さんはよく言っていた。
「神様はちゃんとしていればピンチの時救ってくれる。」
って。
だから、祈りを捧げていた。
教会の中はいつも静かで神様がいるみたいだった。
…そんな中聞こえたのは"バンッ"という銃声。
"カキン"という金属の音。
教会に来ていた教徒の人たちは慌てて後ろの大きな扉を見た。
そこには銃を持った男の人たちがいて。
ほとんどガタイのいい人ばっかりだったけど1人だけ男の子だったのは覚えてる。
その人達がこっちに向かって鋭く輝く銃口を向けた。
その瞬間、隣にいた母親は俺らの前に立ちふさがって、
父親はマシンガンで撃たれ、
妹の有栖は頭を鈍器で殴られたのか、頭から血を流していた。
俺はどうすればいいのかわからなくてただ固まっていた。
『七瀬…、椛を連れ…て、逃げて…』
母さんの声だ…、まだ生きている。
でも幼かった頃の俺はそんな指示には従いたくない。
「は、はぁ?!なに言ってんだよ母さん!!起きてよ!!」
叫ぶように言う俺。その瞬間、前髪に何かが当たり、前髪が切れる感覚があった。
…銃だ。そう思った瞬間俺は妹の頭を掴んで無理やり椅子の後ろに隠れた。
「母さん、父さん、有栖、逃げよう…」
そう声をかける。
誰かの足音が近づいてくる。アイツらだ。
泣きそうになる俺。泣いている妹。
それをみた母親は言った。
『七瀬は椛を連れて逃げなさい!!!!言うことくらい聞きなさい!!!!』
あまり余っていないであろう意識で怒鳴る母さん。
撃たれた腹を抑えながらもこっちに微笑みかけてくる。
まるで、お願いね。とでも言うかのように。
「……わかった……おい椛!行くぞ!!」
泣きそうになるが、無理やり涙を引っ込ませて、
強く妹の腕を掴んで走り出す。
それと共に教会の中で俺らを追うかのように響き渡る銃声。
『いやだっ!!お母さん!!!』
泣き叫ぶ妹に母さんは優しく微笑みかけて、途切れた。
俺は振り返らないで、ただ妹だけは守る、そう思って走った。
教会を出ても、走った。
それから、俺らは路地裏で生活していた。
スラム街だ。大人にバレたらどうなるものかわかったことじゃないから。
次第に腹は空く。妹もそうだ。
……俺は付近の店から何度も盗みを行なった。盗まないと生きていけなかった。
『コソ泥っ、待てっ!』
『あっちの路地に逃げたぞ!!』
そんな声が後ろから聞こえても走って逃げた。
妹に食わせなきゃ。
『お兄ちゃんは…いらないの…?』
「お兄ちゃんは戻ってくる途中に食べたから大丈夫。」
こんな嘘をついてでも、ね。
たったひとつのリンゴを妹が食べてた時の顔は可愛かった。
二度目の守らなきゃって思ったのはここだった。
……ある日、あのことがあって5ヶ月くらい経った頃。
俺はいつもの様に盗みを図った。
のだが、どうやら失敗してしまった様で店の大人に捕まった。
「離せっ、やめろ!」
必死に足掻く。が、意味なんてない様で。
『おい!そのガキの妹か?コイツら売ったら金になりそうだな!!』
なんて声が聞こえる。その声の主が引っ張ってるのは妹だった泣いている。
「っ…その子を離せっ、さもないとっ…!!」
そう言って俺を抑えてる奴を振り払い、
男に向けたのはトランプの形をしたナイフ。拾ったものだ。
『あ"?ガキのくせに調子乗ってんじゃねぇぞ?…連れて行くぞ!!』
その声が最後。頭に鈍器で殴られた様なひどい痛みが走り……真っ白な世界に入った。



『はぁ…なーんでこんなお馬鹿な死に方するのー?せっかく期待してたのに…、
…もうっ、続きが見たいから仕方ないなぁ、僕が生き返らせてあげるよ!


……金銭問題と長時間ぶっ通し説教かぁ……』



……人身売買の建物に連れてかれた。
牢屋の様なカゴに妹と入れられた。
値札を下げられた。77,000と書いてあった。
…妹の不安げな顔。申し訳なくて仕方なかった。
あれからどれだけだっただろう。
俺が身体検査を受けて戻った時にはもう妹はいなかった。
あっという間に売れていた。
怖かった。妹がどうなるか、
どんな奴に買われたか、
これからなにされるのか、
もう会えないのか、
って。その日はずっと目から変な味の透明な液体が流れ続けていた。
……数日経ってスーツを身にまとった数人の男が俺らのカゴを見ていった。
『…こいつなら…』って。
するとすぐに店長と思われる男に話しかけた。
長々と話して男は札束を渡した後、カゴの扉を開けた。
『ついてきなさい。』
ただそれだけ言って。
……男が俺らを連れて行ったところは遊戯場だった。
数々の名高きギャンブラーが集まるギャンブラー界では有名らしいところ。
『おぉ、そいつらが新入りか』
『なんだぁ?随分ボロい服だぞ?』
『安く売ってあったんだよ。鍛えたら強そうじゃないか?』
なんてよくわからない会話をしている。
それから俺のギャンブル運任せの賭け人生が始まった。
毎日毎日カジノでよくわからないハイローとかブラックジャックとか色々させられた。
でも次第にコツじゃないコツつかんで行った。
これで賭けにもたくさん勝って、褒められる。
それでも俺は満たされやしなかった。
妹がいないから。
ある日、オーナーが俺に話しかけてきた。
『なぁ七瀬。』
「あ、なんでしょうオーナー。」
『…お前妹とかいるか?』
「…?!」
突然すぎて開ききった瞳孔を開く。
すると相手はふっ、と笑って言った。
『ついてきなさい。早く。』
そのまま、俺をみらずに、ついてきてるだろうと思っているように歩き出した。
俺はあ、待ってください…!なんて声を漏らしてついていく。
長い長い廊下を歩き続ける。今だに俺でも迷って遭難するのだが…。
そんなことを思いながらついて行っていると、オーナーはとある部屋の前で立ち止まった。
それに動じて俺も立ち止まる。
オーナーはその部屋の扉をゆっくり開けて、入れ、とでも言わんばかりの顔で俺をみた。
俺は少し頭を下げてその部屋に入る。
…そこには、買われてしまったはずの妹、椛がいた。
「…もみ…じ?」
すっかり大きくなって、髪も伸びて可愛くなっていた。
ぱっと見誰だかわからないかもしれないが俺はわかった。
『…七瀬…お兄ちゃん…だよね、?…お兄ちゃんっ!!!」
俺の声に気づいたのか、外を眺めていた体はこっちに向く。
そして俺のことを見るなり、驚いたような、嬉しそうな。そんな表情で、
目に涙を浮かべて抱きついてきた。
お兄ちゃん、おにいちゃんだぁ…!なんて言う妹を見て、変わってないな、
そんなことを思い、そーだよおにーちゃんだよ…!そんなことを言いながら抱きしめる。
それを微笑みながら見つめるオーナー。
ありがたくて仕方がなかった。

……それで今の俺がある。名高きギャンブラー七月七瀬。
…まぁもちろんこれは偽名なんだけどね。

あとから聞いた話だけど、
椛はテレビアニメの関係者に買い取られ、強制参加をさせられたらしい。
普通なら生きて帰ることはないのだが、なんらかのバグで
電子の世界から投げ出され、戻ってきた時、彼女の目の前にあったのが
ここだったらしい。でも衰弱しきっており、倒れてしまっていたと。
まったく、変な話だよね!!


















「実はオレの賭けは全て神頼みなのさ。」
「神なんざ、いるわけないだろーが。」

  • 最終更新:2019-01-15 17:36:48

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